料理の味を表現するときに、どちらかというとあまり良い意味で使われることの少ない「苦味」。しかし苦味は、甘味・酸味・塩味・旨味と共に「和食の基本五味」に加えられる味覚で、使い方によっては料理のアクセントにもなり、甘味や旨味が引き立つ“名わき役”でもあるのです。
その味のふり幅は料理に深みをも感じさせ、料理をドラマティックに演出します。そんな苦味の本来の役割と、調味料としての苦味活用法をご紹介します。
苦味は毒の味?!大人の味と言われる理由
本来苦味は、この食べ物は食べるに適さず危険であるという、毒物から身を守るための“警告”を知らせるサインだったという説があります。そのため、人間の舌に存在する苦味受容体の種類は五味の中で一番多く、甘味の1000分の1程度の薄味でも感知できるそうです。
数は違えど人間以外の動物にも苦味受容体は存在するので、同じような理由で苦味を好んで食べる動物はあまりいません。しかし人間は成長の過程でたくさんの種類の苦味を経験し、食べ物の危険を苦味以外でも学習します。そういった経験を積むことで、子供の頃は全体的に嫌いだった苦味の中にも“好きな種類の苦味”が生まれます。大人になるにしたがって、ビールや山菜、コーヒーやビターチョコレートがおいしく感じられるようになるのはそのためです。
ただしこの経験値には個人差があるため、大人になっても苦いものが嫌いで一切食べられない方もいます。
苦味成分の種類
一言で苦味と言ってもチョコレートに感じる苦味と山菜に感じる苦味が違うように、食品に含まれる苦味にはたくさんの種類があります。そんな食品に含まれる主な苦味成分を紹介します。
- コーヒー・茶 カフェイン・カテキン
- ビール(ホップ) フムロン・タンニン
- 日本酒 苦味アミノ酸
- チョコレート(カカオ) テオブロミン・カフェイン
- レモン(柑橘類) リモニン
- グレープフルーツ ナリンジン
- ゴーヤー ククルビタシン
- フキノトウ アルカノイド・ケンフェール
- たらの芽 エラトサイド
- よもぎ タンニン
- セロリ アピイン
- 唐辛子 カプサイシン
- チーズ・大豆 苦味ペプチド
ここに記載した苦味成分の他に、食品の焦げによる苦味成分・メラノイジン、内臓類に含まれる胆汁酸、食品添加物の中には苦味料があります。
苦味成分は苦みの他にそれぞれ効能があり、例えばカフェインには脂肪燃焼作用・疲労回復効果、フムロンには女性ホルモン様作用、テオブロミンには覚醒作用・自律神経調整などに効果を発揮します。他にも苦味成分には、デトックス効果や消化促進作用などの効果が期待できるものもあるのです。
料理に“隠し苦味”調味料感覚でおいしさアップ!
和食には「隠し味」という料理の味や食材の味を引き立てる技があります。苦味が苦手な方には、苦味を感知しない程度のほのかな苦味を加えることで、単一な味わいから別角度の味覚が生まれ、味わいが増す・深みが生まれる・味の余韻が長くなるといった効果が感じられるようになります。
この効果を利用した調味が、カレーやトマトソースにビターチョコレートやコーヒーを調味料として利用する方法です。ほのかな苦味を加えることで、カレーやトマトソースに深みやコク・キレが感じられるようになります。この効果を利用した調味は他にも、スイーツに焦がしたカラメルを加えることで甘味を引き立てたり、旨味の強いラーメンスープに焦がしにんにくを加えることで香ばしさや奥行きをプラスするなど、様々な料理に活かされています。
また一説によると、人は疲れやストレスを感じた後は苦味の感受性が低下し、苦味をおいしく感じられるのだとか。この作用を利用すれば、朝食よりも仕事の疲れを感じた夕食やお酒のつまみの方が、苦味をおいしく利用できるかもしれません。
料理はひとつの味だけで構成されているのではなく、甘味・酸味・塩味・辛味・渋味といった様々な味のコントラストで、主となる味わいを引き立ておいしさを生み出しています。「味覚のサブリミナル作用」というべき苦味を調味料のひとつとして活かし、食をより豊かに楽しんでくださいね。